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マニエリスムと近代建築
先週末参加したARCHILIVEのログ

テキストはコーリン・ロウ『マニエリスムと近代建築』から「理想的ヴィラの数学」「マニエリスムと近代建築」「ラ・トゥーレット」の3つ。

年代的にいうと、47年、50年、ラ・トゥーレットは正確に分からないけれど建物自体の竣工が57年なのでそれ以後になる。(ポストモダンとの絡みでいくと、ヴェンチューリの『建築の多様性と対立性』が62年。B・ルドルフスキーの『建築家なしの建築』が64年。)

マニエリスムというのは、美術史的にいえばルネサンスとバロックの間1520年から1600年あたりの、技巧(マニエラ)的で非合理的な様式をさす。ルネッサンスが古典の再発見であり、人間主義の理性的で合意的な精神にあったとすれば、マニエリスムはその変形ともとる事が出来る。背景として、ルネサンスの巨匠たちによって様々な傑作がつくられたので、マニエリスムの芸術家達はその巨匠の技術を習得しそれを如何に駆使して表現するかという事に専念していったということ。また宗教改革、蛮族の侵入によってルネサンス時の価値観は揺さぶられ、先の見えない危機的な状況を色濃く反映している。たとえば、静的な均衡を保ったダビンチのそれに対して、ミケランジェロの人物はどれも不自然に体をねじり苦悶しているようもみえる。
バロックとの相違についてはワイリーサイファーの『ルネサンス様式の4段階』にもあるように、マニエリスムとは、時代の危機的な分裂状態にたいして、それでも知や認識を通して乗り越えようとしたもので、対してバロックはカトリック的に感性の力で乗り切ろうとしたとされている。

で、このマニエリスムという概念が1950年代にあらわれ、70年代にブームになったというあたりで、マニエリスムについてはこの辺にしておいてロウの話に戻る。(若桑みどりさんのマニエリスム芸術論は読みやすくかなりエキサイティングしてよめるマニエリスム本です。)


『理想的ヴィラの数学』はコルビジェのサボア邸とパラディオのヴィラ・ロトンダの比較から入り、同じくガルシュの住宅とマルコンテンタ荘の比較がなされていく。
この表面的には違って見える(心理的、物理的な重量感と、時には船であったり体育館でありたいとする)マルコンテンタとガルシュの住宅を比較する事で、ロウはガルシュの住宅にひそむマニエリスム的な性質をあぶり出していこうとする。

最初にクリストファー・レンのパラグラフから「自然による美=数学的、幾何学的」と「慣習による美」という考えが示される事になる。

そうするとガルシュの住宅とマルコンテンタ荘はともに「自然による美」によっているようにみえる。それは最初の平面の比較によっても同意させられる事になる。しかしロウは、その後両者の比較を形式的かつ、主体的感性的に行い、両者の数学的規範とはことなる要素を浮かび上がらせていく。

ガルシュでは、平面上数学的規範は柱の配置に見られるが、いわゆる自由な平面によって中心性は薄れ、Z型のバランスがつくられている。立面においても全体は幾何学的に構成されているが、水平にはしる窓や非シンメトリーな付加物によって中心性は崩されている。マルコンテンタでも、平面は数学的な規範が強く表現されているが、立面は古代ローマのオーダーという「慣習による美」によってなりたっている。そしてこの対立する関係性こそファサードを生み出す原動力となっているとされる。

こうして数学的模範にしたがいつつも、それとは対立する要素(慣習による美)が同時に存在している。対立している要素が、解消されずにそのまま統一されるという「曖昧性/両義性」という概念がみいだされる。

そしてこの「曖昧性」は、ガルシュにおいてさらに、水平方向への拡張という「概念」と、絶対に存在する建物の境界に「視覚的に」行き着く事になる、ということの対立に適応される事になる。水平に広がっていくのとは逆の方法として、テラスや屋上庭園が大きくえぐりとられ、「エネルギーの衝撃力を逆方向に持ち込む」という対立的な方法が同時によういられている。

またマルコンテンタでみられた、「自然による美」と「慣習による美」の対立はコルビジェにも引き継がれ、ローマという絶対的基準をもったパラディオと違い、折衷主義やロマン主義を経た時代のコルビジェは、「最も寛大かつ独創的な折衷主義者」として、さまざまなエレメントを類推的に引用し、対立的な物で満たし、なおかつそのまま統一してしまう。


とにかく、ロウが近代建築の中に「曖昧性」という概念を見つけ出した事は、後のヴェンチューリへ、またコルビジェの折衷主義的態度はポストモダン的な姿勢に繋がっていくし、またロウの純粋に美学的な分析手法はネオモダンへと繋がっていくとみると、その重要さははかりしれない気がする。

つづく。。。
by shinichi-log | 2008-04-26 00:10
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