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意識的な「素材」のチューニングが生み出す「仕上げ」
京都 山科の住宅 by ARTENVARCH

京都から滋賀へと向かう国道沿いの道から少し入ったところにある南面の斜面を造成して造られた住宅地に建つ若い夫婦のための住宅。北から南に向けて高くなる3つの切妻屋根を持つ構成で、一番南側は1、2階ともに屋外空間となっており、坂の下からアプローチするとこの大きな気積を持ったフレームが印象的に出迎える。一般的な縁側空間は軒を深く出し、風景を水平に切り取りつつ、内部に適度な影を作り出すわけだが、ここでは半屋外空間の屋根が一番高く設定され、独立した部屋として設計されている。真ん中のボリュームの内側から外を見ると、まず(真ん中のボリュームの)軒裏が見え、その先のもう一層高い位置に軒裏が見える。この反復の操作が、内部の開放感を一層高めている。

内部の仕上げは基本的に床・壁・天井ともにフレキシブルボード素地仕上げ(床のにウレタン塗布)で、そこに既製品の高性能サッシがつき、バルコニーはむき出しのファインフロアとブレース、農業用シートを使ったカーテン、ガルバリウムの笠木と全体的に即物的に素材が用いられている印象を受ける。一方で、建物全体は「グレー」の色味に統一されるように慎重にチューニングされている。具体的には、クライアントの要望から選ばれたグレーのフレキシブルボード、景観条例によるであろうグレーの外壁とそれに近しい色味のサッシ、カーテン、手すり、木材への塗装、一部ホワイトが用いられているが、曇り空の下ではそれらもグレーの階調の中に溶け込んでいる。つまり、素材のレベルでは即物的に「仕上げていない」が、全体でみるとそれらは「仕上げられている」と感じられる。そっけなく使用されている「素材」と、意識的な「素材」のチューニングが生み出す「仕上げ」。

そう考えると「仕上げ」という状態は、そのもの単体において生まれる状態というよりも、建築全体における他の素材の状態との関係の中で決まってくるものとして捉えられる。仕上げが集積して全体が作られるのではなく、全体の中で「仕上げ」という状態が決まってくる。そうするとこのグレーという色そのものが「仕上げ」であることや、装飾的な要素であることをこえて、この住宅における「仕上げ」という状態を規定していると考えられ興味深い。その他、性能面についてもかなり意識的に取り組間れており、次は「性能」と絡めつつ「仕上げ」についての話を伺ってみたい。
by shinichi-log | 2016-04-23 20:45
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