自由とは何か/大屋雄裕
著者は名古屋大学で法哲学を専門にしている大屋雄裕氏。
副題にある通り「個人」のあり方や監視社会を通じ現代における「自由とは何か」という非常に難しい問いに、法哲学的観点から述べられている。
近代が前提としていた自律的で主体としての個人という存在が揺らぐ今日において、「自由」な「個人」とは何かを問うことが本書の目的とされている。

一章では「個人」という存在と「自由」がどのように現れてくるのかが例を挙げながら示され、続いてそのような「個人」と「自由」が何によって妨げられるのかが述べられている。国家?共同体?・・・国家は現在の常識的な意識からすると私たちの自由を束縛する長たるものであるが、近代国家成立は中世的な共同体に縛られていた人々を解放し、主体的な個人として成立させたという事実に気付かされる。
そして著者はアイザイア・バーリンの述べる2つの自由を提示する。つまり自由に関して「強制の内容」と「誰が決めるのか」という問題を分け、前者を「消極的自由」後者を「積極的自由」という概念にむすびつける。もう少し分かりやすく言うと、「消極的自由」とは、制限されない、自分の思うままに振る舞える事、「積極的自由」とは自己実現の自由(ヘーゲル)、自由な意志にもとづいて公共な決定に参加する事になる。(後者は近代的主体というものを前提にしているのだろう。)
このような単純な2項対立への批判(井上達夫)や、積極的自由の暴走の危険(ナチや独裁)も十分考慮されるべきであろう。しかしここで注目しないと行けないのは「消極的自由」をかかげるリバタリアンの主張にも、自由は自然にではなく(自然は我々を怒らせたり混乱したりしない/ルソー)“誰か”の意思によって制限されるとされているが、本当にそうだろうかという問いである。今やこの自然ですら私たちを規制するように働いているのではないか?それがアーキテクチャ型権力(ローレンス・レッシグ)である。

次章では、レッシグによるアーキテクチャ型規制というものがいかなるものであるのかが、監視社会のあり方、データベースによるシュミレーション型のマーケティング(amazonのおすすめ)などを通じて語られる。つまりアーキテクチャ型規制とは「先取り」ということであって、行為の可能性をあらかじめ消去する事によって、知らない間に個人の自由を奪ってしまっているということである。(良く言われるのは、マクドナルドの椅子とか、寝転ぶ事が出来ないベンチ等)先ほどまでの議論と違い、誰かによって強制されるという事は無く、環境自体が規制されているのである。
そこにあるのはリスクへの予防や、必要な商品やサービスが迅速かつ適切に、そしてあらかじめ用意されていればという私たちの欲望によっている事が強調される。
であるから著者はことさらにアーキテクチャ権力を批判する事に有効性見いだしていない。それは私たちが望んだ事なのだから。
そこで著者は、事前規制であるか事後規制であるかの違いに目を向けるべきだという。事前規制(アーキテクチャー)と異なり事後規制においてはあらゆる可能性が開かれているのでそれは自由とは抵触しない。一見当たり前ではあるが、自由であることは当然ながら必然としてリスクを伴うということになり、そしてリスクが自由を奪うのではなく、リスクの排除が自由の排除に繋がると結論づけられる。

三章では、上記の議論を引き継ぎつつ刑法という観点から議論が進められる。そこで展開されてきたのは「事前規制と事後規制の対立、あらかじめリスクを排除していくシステムと個人の行為のあとでその責任を追及していく制度の対立」であったと記される。そして、著者は事後的に責任を負う事によって、行為者は偶然的・確率的にその行為に追いやられた客体ではなく、積極的に自由な選択をした主体としてあらわれるのだと主張する。しかし、功利主義的な立場からすると、近代的な主体というフィクションによるよりも、アーキテクチャ型権力のほうがより私たちに快楽や欲望を提供するのだから、主体というものに固守せずとも積極的にアーキテクチャによる規制をすすめるべきなのである。しかし筆者はこの提案に魅力を覚えつつも、アーキテクチャが誰かによってつくられている限り悪意の暴走をはらんでいるし、完全でない予測に浸るよりかは、むしろまだ多くの人は自分自身を自由な主体として想定していきたいと願い、そのことに気持ちよさを抱いているとする。そして責任を引き受ける事によって自由というものが発生するという〈擬制〉はまだ信ずるにたるのではないかと主張する。

自由という捉えがたいものに一定の定義を与えているという点では評価できるのだが、では、もう少しこの増大するアーキテクチャ型権力に対しどのように対処すべきなのかなどについても知りたいところである。
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by shinichi-log | 2008-08-26 02:25 | review | Comments(0)
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