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複雑な世界に踏みとどまり、世界の構造を見いだす
複雑な世界に踏みとどまり、世界の構造を見いだす

非線形科学というと、気にはなるけれど、手を出すのをためらってしまうものの一つだが、この本はそんなためらいをさっといなしてくれる。なんせ数式がほとんど出てこないので正確さにはかけるだろうが、非線形科学の言おうとしている概念やエッセンスは十分理解する事が出来る。カオス理論やリズムやネットワークというテーマが非線形科学の扱う領域ということも初めて知った。建築ではとかく伊東豊雄や佐々木陸郎らによって語られているが、彼らのメッセージは複雑で多様な形態もコンピューターの解析によって、人間の側で扱う事が出来ると言うようなことが主で、本書が語る非線形の考えとは少し違うのかなと言う気がする。

多分本書の最も重要な方程式は、1963年にエドワード・ローレンツが提出したローレンツモデルなる流体運動を記述する方程式だ。それは非常に複雑で多くの変数を持つ流体運動をたった3次元の数式で近似した事にあった。この式を適用する事でかなり流体の運動が分かるようになったとはいえ、多次元の現象を3次元に近似したのであればそれはかなり現実からは遠い事になる。
けれども、ローレンツの真の目的は、非常に複雑な現象を単純な方程式で解いたという事よりも、単純な方程式によってカオスと呼ばれるような多様な現象がつくられるという事を示したという点にあるといえる。

それまでは、複雑な現象とは、様々な個別的な運動の合成で、その一つ一つの運動自体の普遍的法則をコントロールすることで、現象としての複雑さを記述できるという考えだった。ようは普遍的な原理をその構成要素に求めどんどん細分化していき、絶対に不変な状態にまで還元しようとしてきた。そしてその最小限の普遍性から、つまり樹木が根っこから順に枝先まで伸びていくように現象を記述してきていた。このような科学観は何も、物理学に固有の物でなくニュートン以来広く近代社会に浸透しているし、私たちの日常生活においても一般性を得ていると言える。ローレンツの示したモデルはこの考えから全く異なった概念を提出している。
そう考えると、非線形の持つインパクトは相当大きいという事がよくわかる。実際の生活世界の現象というのは、実験室のように条件を均一にされた物ではないので、そのほとんどは複雑なゆらぎをもつ現象である。よって私たちを取り巻く世界の認識は大きく変化していく。その揺らぎが実は単純な仕組みによって成り立っていること。そして一見難の関係もなく、異なって見える種々の現象が実は同じような構造によって成り立っているという事を示してくれる。

ここら辺で建築の話へとシフトしてみると、近代科学的な還元主義的考えは、建築という分野においても見いだす事ができる。それは構成の上での、点、線、面、柱、壁、スラブ、屋根、、、というふうに。また機能面でもビルディングタイプごとに分割され、都市はゾーニングによって細かく分断される事で全体がつくられてきた。近年では、建築の設計手法でもアルゴリズムという言葉が聞かれるし、多様性というキーワードによって複雑性や非線形的な考えは形態形成の上でおおいに応用されている。

ある単純なルールを、パラメーターの値を調整しながら変化させる事で得られる世界は、おそろしく多様で豊かかもしれないということ。心の中で思い描いた世界を再現するのではなく、見えない結果に驚きつつ作り上げられる新しい世界の可能性。場所と機能というパラメーターを操作しながら、自分のキャパソティーを悠々と超えていく構造を作り出してみたいと思う。
by shinichi-log | 2008-04-30 00:19
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