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うわごと1
1、ノマディックライフ(非定住生活の中で)

一昨年の夏の終わり、僕はヨーロッパに向かう飛行機の中にいた。そして昨年は東京の真ん中で働いていた。今年はまた京都で暑い夏を迎えている。ドイツへ行くまで飛行機に乗ったのは一回だけ、パスポートすらなく海外旅行にももちろん行ったことなどない状態であったが、松ヶ崎での大学生活も5年目に入りあまり代わり映えのしない日常に少々退屈していた僕は、勢い留学のプログラムに応募してしまったのだった。その勢い余った感じの決断によってノマディックな世界に踏み込んでしまったようだ。ノマドは遊牧民という意味合いの言葉である。一定の土地に定住せず、牛や羊などの家畜とともに水や草を求めて移動し、家畜を飼養する牧畜形態で生活する人たちのことをさす。がしかし近年の僕の状況はむしろアーバンノマド、さらに言えばトランスアーバンノマディズムとでもいうべきモノかもしれない。一定の都市に定住せず、複数の都市にまたがって短期間の移動を繰り返しながら生活していく。けして、ある場所に根を下ろしきってしまうのではなく、つねによそ者(部外者)的な立場の中に留まる。その中から見えてくるのは都市の間にある差異であったり、時間と距離の概念の曖昧さだったり、複数の都市が並列化してくる有り様であったかもしれない。

一昨年のドイツ留学の際は、留学先のシュトゥットガルトを拠点に周辺の非常に美しい南ドイツの小都市や、後で詳しく述べるように欧州のへそとも言える位置にある立地を生かして、周辺国の都市を旅してまわった。その中で同じ欧州といえどもアルプス以南と以北での気候的、文化的な違いが非常に大きく、その多様性のある文化に触れて、懐の深さに改めて驚いた。たとえば同じ真冬の2月でもスペインでは半袖シャツで過ごせるのに、ベルリンでは零下5°とかそれ以下で、しかも航空路線の発達した欧州では、その間がたったの2、3時間(さらに30ユーロほど)という状況には異様な感じさえ感じた。近代交通は、実際の距離というものを相対化してしまい、世界は位相的な様相へと変化した。しかし最近までは実際のところ遠方に行けば行くほど交通費、時間が増大するということで、実際の距離の感覚は残されていたと思われるが、このように遠くに行く方が安くて早いという(航空券代は、離発着空港の税金などの複数要因で決まってくる)
状況に至っては、徒歩や鉄道や自動車の場合、都市(中心)から出発して、郊外を通り、田舎をへてまた郊外、都市部というふうに、世界は都市を中心にしたグラデーションのあるフィールドとして考えられるが、航空機の移動に置いては都市(中心)から都市(中心)という風に、中間を持たずダイレクトに中心が繋がっていく。

〈ユビキタスホーム〉
少し話がそれてしまったが、世界のグローバル化や、ますます強くなる資本主義や、スピード重視の傾向によって、このように都市間の移動がダイレクトになり、様々な都市を移動しながらという生き方が強まっていくことは、必然的なことだろう。その時に、都市は非定住者(ノマド)にとっての(ユビキタスホーム)としてのポテンシャルを備えることが必要になってくるのではないだろうか。つまり、一つの都市に留まって、家を持ち家族と幸せなマイホームを築くというのでなく、仮にどこかに家があるとしても、常に移動し続ける現代的身体にとっては、初めて訪れる、もしくはちょくちょく訪れる都市がどのように受け止めてくれるのかが重要になってくるということだ。定住者にとっては自分の住んでいる都市を〈ホーム〉とすると、その他の都市は外部であり、出かけていきお邪魔する対象ということになる。がノマド的身体にとってそのような絶対的な内部しての〈ホーム〉は存在せず、並列的に散らばっている諸都市の中に〈ホーム〉は偏在していくのだろう。さきほど〈ユビキタスホーム〉というのはこのように諸都市の中に偏在していくノマド的な内部(心理的に)空間のことをさしていると思われる。それが何であるかを意識させず(見えない)、しかも「いつでも、どこでも、だれでも」が恩恵を受けることができるインタフェース、環境としての空間。
具体的にはどのような状況を〈ユビキタスホーム〉ということができるのだろうか。ただ単に心地よいホテルの設備が整っているとか、交通システムがすすんでいるとかいうことではないと思う。少々当たり前で、何を今更と言われるかもしれないが、やはり公共空間(資本的公共空間というのも考える必要がある。この名前自体がおかしいかもしれないが、資本経済かつ共産主義が成り立っていることを考えると不思議ではない)のあり方が問われてくるのだと思う。そこには既存の公共空間に対する議論や、住民のためだけの議論でなく、都市を訪れる様々な人に対する公共性というものを考える必要があるのではないか。
by shinichi-log | 2007-09-04 11:27
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