人々の生活へとコミットするための伝統工芸
伝統産業の活性化をめざし、国際的視野とマーケティング力を兼ね備えた伝統産業の未来を担う若手職人の育成を目的とした取り組みが、京都府と京都リサーチパークによって進められている。「京都職人工房」と名付けられたこのプログラムは、受け継いできた伝統の技だけでなく、今後社会の中で生き残っていくための「知恵」を身につけることを重視したものだ。今回、このプログラムの一環として特別セミナーのコーディネートを行うことになり、ゲストに大学の先輩でもある建築家の乾陽亮さんを招き「伝統工芸に生活をパッケージする」というタイトルでお話をしていただいた。

そもそも建築家である乾さんが伝統工芸の世界と関わるようになったのは、地元堺の森本刃物製作所の仕事をwebで紹介する仕事に関わられたことがきっかけだった。もともとweb制作の仕事をされていたので、その後「凄腕職人街」という各伝統工芸の分野のなかでもトップクラスの職人方が行なわれている展示会のwebsiteをつくられたり、森本刃物製作所からの依頼でペーパーナイフの企画に関わられるなど、ここ数年深く伝統工芸の世界にコミットされてきた。また、日本の伝統的な技法である折型を現代の標準的な規格であるA4サイズで展開しインターネット上で配布するといった活動も独自に行われているなど、伝統工芸をどう現代の生活の中にアップデートするかといった視点で活動に取り組まれている。

熟練した職人の技にたいするリスペクととは裏腹に、伝統工芸そのものにたいしては非常にドライな考え方をもっておられ「手作り=いいもの」「伝統工芸=いいもの」といった考えはまず捨ててないといけないという話が全体のトーンになっていたようにおもう。その上で、なぜそれが消費者にとっていいのかをちゃんと考え、伝えていく事をしないと先は無いよと伝えられていた。これはどのような業界でも同じだと思うが、顧客のいないコミュニティ内での技の競い合いは「作れるから作った」が横行する。そうすると端から見るとなぜそれがすごいのかがよくわからない作品が出来上がり、結果売れのこっていく。だからここで重要なのはいかにそれを使う人の生活にコミットできるのかを考える事になるという事であった。

私自身知らなかったので驚いたのは、熟練した職人が作る事で、駆け出しの職人によるよりも安価に製品を提供できるという事実だった。イメージ的にはその逆のように思えるが、実際は最終の品質は一定してるので、ある時間でどれだけの数を作れるかが値段を決める要素になってくる。なのでより素早く均質な製品を作り出すことできる職人が取り組む事で最終製品の価格を下げる事ができる。美術工芸とは異なり、いかに単価をさげ普及させていくのかという「産業」として伝統工芸は考えないといけないので、そうした価格設定になるらしい。ようは「伝統工芸=機械化に失敗した産業」なのだ。昔は手作りだったものも機械化できたものは機械化され、より安価で私たちの生活に提供されるようになったが、現在まで伝統工芸として残っているものは、手でしか製造できない品質を作り出す技術ということができる。その手でしか製造できないという事がどう生活に貢献していくのかという観点から製品を生み出していかなければならない。言いかえると、どのような生活を提供するかを製品に持ち込む事がより重要になっている。

最後に、乾さんが伝統工芸に関わられた凄腕職人街のwebsiteは、関係する職人さんへの取材、インタビューを含む非常に丁寧な仕事となっている。そして注目に値するのがそれがすべてボランティアで行われているということだ。また、先に書いた折型も誰かに依頼される事無く始められていたのが、のちに製品化される事になるなど、まずは仕事としてではなくプロジェクト化する事が、周囲との関係性の構築を促進させ、後の展開につながっている。こうしていったん自らをヴァルネラブルな状態にすることの重要性を改めて気づかされた会でもあった。
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by shinichi-log | 2012-12-03 00:54 | daily | Comments(0)
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