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村林由貴展/GALLERY RAKU
ギャラリーRAKUで開催中の村林由貴の個展では、今ももくもくと作家本人が公開制作を続けていた。公開制作の期間はとっくに終了しているが、展示中に考えた事や思った事を終わってからでなくて、今このときに形にしておきたいのだという。

そんな「溢れ出て止まない世界」というタイトルの本個展では、京都造形芸術大学の修士課程に在籍している作家の、学部時代の人物を中心とした世界を描いたものから、木炭で描かれたうねるような線描の作品、抽象絵画のような様々な色の線が絡まり合った作品、そしてまさに今ここで制作されている作品までを一堂に会した展覧会となっている。全体的に大きな作品が多く、また大胆な色使いと、生々しい線の動きによって非常に迫力ある展覧会になっている。そうやって一同に集められた作品を眺める事で、作家の絵画への追求の奇跡を追うことが出来るのもまた楽しい。学部時代の明らかな具象性やはじけんばかりの色彩も、別の作品では消え去り、線のそのものの動きへと力点が変化しており、しかし次の段階では筆を用いることで線であると同時に色彩という問題が戻ってきている。

最も興味深かったのは制作のプロセスであった。一見すると、大画面に表現されたうごめくような線の集まりは、作家の溢れ出す想いを吐き出したかのようなものに見える。しかしながら実際はある自然物のモチーフを用いて描かれており、今回の制作でも片手に枯れかけた花をもちながらという姿が見受けられた。そうやって絶えず、花びらの持つある種の「パターン」を読み込んで、吐き出す。言い換えれば自然物から読みとった情報を、芸術家の思考(もしくは身体)というシステムに通過させて、線としてアウトプットしている。自然の様相が、彼女というフィルターを通して、変換され、まさに「溢れ出てきている」。この生成の瞬間は、単にイメージが生み出されているというだけでなく、どこか自然そのもののようにも見えてくる。そしてその線は、身体を使って描くことでより表情豊かに描写されていく。

タイトルにもあるように彼女が描いているのは、何か特定のモチーフではなくそうやって作家の身体を通過して溢れ出す「世界」なのだ。それも、世界を写し取った絵ではなく、まさにキャンバス場で生成されているという状況=世界なのだと思う。そこで生み出されているものは、世界を描いた絵でなく世界そのものともいえるだろう。

展覧会は25日まで。それまで彼女の作り出す世界は溢れ出し続けるにちがいない。
by shinichi-log | 2010-04-21 23:56 | review
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